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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)1343号 判決

上告人

金沢みつ子こと

坂上みつ子

右法定代理人後見人

坂上よし子

代理人

荻野弘明

被上告人

右代表者法務大臣

高橋等

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人荻野弘明の上告理由第一点について。

論旨は、要するに、原判決が、朝鮮民主主義人民共和国の法令上の根拠を審究することなく、たやすく、上告人の母よし子が日本国との平和条約の発効により朝鮮の国籍を取得したと判断したことに審理不尽、理由不備の違法がある、と主張する。

原判決の確定した事実によれば、上告人は、本籍を朝鮮黄海道信川郡北部面石塘里二七七番地として朝鮮戸籍に登載されていた金沢英一を父とし、同よし子を母として、昭和二九年一〇月一日日本国において出生したものであるが、その後右英一を被告とする親子関係不存在確認の訴を提起し、昭和三三年三月一八日勝訴の判決を受け、該判決は上訴なくして確定した、というのである。そして、朝響戸籍令の適用を受けて朝鮮戸籍に登載されていたものは、日本国との平和条約二条(a)項の規定により、集団的かつ当然に、日本の国籍を離脱すること、当裁判所昭和三六年四月五日大法廷判決(民集一五巻四号六五七頁)の示すところである。かように領土の割譲、併合、復帰等国際法上のいわゆる領土変更に伴なう国籍の変動にあたつては、当該領土に属すべきものは、旧国籍を離脱するにとどまらず、その変動が主権の移転によるものであるから、当事国ないしは相手国の国内法の規定の如何を問わず、旧国籍の離脱と同時に新国籍を取得するものといわなければならない。

それ故、原判決が、上告人の母よし子の朝鮮国籍の取得につき朝鮮の国内法上の根拠を挙示しなかつたのは、むしろ、当然であり、これをもつて所論の違法あるものとはなし得ない。されば、論旨は、理由がない。

同第二点について。

論旨は、原判決が上告人の母よし子の意思に反して同人の日本国籍の離脱を認めたことが憲法二二条二項に違反する、と主張する。

しかし、右よし子の日本国籍離脱が日本国との平和条約の規定に基づくものであることは、上告理由第一点において説示したところであり、同条約の規定に基づく日本国籍の離脱が本人の意思に反するものであつても憲法二二条二項に違背しないことは、前示大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。

されば、論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

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